Q: マンションの総会で、高圧受電方式への変更と、専有部分における個別受電契約の解約を住民に義務づける決議をしたところ(細則も作成)、最高裁判所が、専有部分における個別契約の解約を義務づける決議(とその細則)を無効とする判決をした、と聞きました。
総会決議が無効となった理由を教えてください。また、今後、どのような場合に同様の理由で総会決議等が無効になるのか(判例の射程)についても教えてください。
A: 平成31年3月5日最高裁判決(平成30年(受)第234号)
1 本件は、マンションの団地管理組合法人(以下「法人」といいます。)が、専有部分の電気料金を削減するために、一括して電力会社との間で高圧電力の供給契約を締結し、住民は法人との間で専有部分の電力供給契約を締結し、電力の供給を受ける方式(高圧受電方式)へ変更する決議をした事案です。
高圧受電方式は、電力会社の約款により、全住民が従前の個別契約を解約しないと実現できません。しかし、一部の反対住民が自分の個別契約を解約しなかったため、このマンションでは実現しませんでした。
そこで、賛成住民が、反対住民に対して、高圧受電方式で削減されたはずの電気代差額分を損害賠償として請求したのが、本件です。
2 最高裁は、「本件決議のうち、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、専有部分の使用に関する事項を決するものであって、団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない・・・。
団地建物所有者等がその専有部分において使用する電力の供給契約を解約するか否かは、それのみでは直ちに他の団地建物所有者等による専有部分の使用又は団地共用部分等の管理に影響を及ぼすものではないし、また、本件高圧受電方式への変更は専有部分の電気料金を削減しようとするものにすぎず、この変更がされないことにより、専有部分の使用に支障が生じ、又は団地共用部分等の適正な管理が妨げられることとなる事情はうかがわれないからである。」と説明しています。
3 反対住民の解約拒否に関連する裁判例としては、解約拒否が共同利益背反行為にあたるとして区分所有法59条競売を認めたものや(横浜地裁H22.11.29)、理事長による反対住民への説得行為を違法ではないとしたもの(東京地裁H27.8.10)等があります。
前者の事例は、解約拒否以外にも共同利益に反する行為が多数主張されていますので、事案の結論は変わらなかった可能性もありますが、少なくとも59条競売の根拠として解約拒否を挙げることは、今後は難しいでしょう。後者の事例は、相当な範囲の説得であれば今後も違法とはならないと思われます。
4 同様の利益状況は、インターネットやケーブルテレビの契約の際に発生するかもしれません。
しかし、マンションは多数人による共同生活の場ですので、「他の区分所有者による専有部分の使用」や「共用部分の管理」に対して「影響を及ぼさない事項」というのは、むしろ例外であると思われます。
基本的な傾向としては、専有部分と共用部分の一体工事に関する事案(最高裁H29.9.14)のように、管理規約や総会決議による団体自治を広く認める流れにあると考えています。
回答/弁護士・マンション管理士
土屋賢司(東京総合法律事務所)